10〜14話

10話から14話。
いわゆる「ナスカ編」と呼ばれるストーリー。
それまでミュウ側と人類側と個々に描かれていた世界が、ここから初めて同時の時間軸で進む。
二つの人種がモニターなどではなく、初対面を果たす場面。
「テラ」のストーリーは、ここから本格始動しだす。


過酷な試練の克服。
それはジョミーの成長過程の大切なプロセスとして不可欠な要素を含む。




時間の感覚がなくなる「地球へ…」のストーリー。
ミュウ側から見た世界でシロエの回から8年後の世界であることが、10話の冒頭、ハーレイのモノローグで語られる。
ブルーの片腕として重要なポジションにいるハーレイ。
ハーレイの航海日誌を読み解くようで、ここはハーレイの面目躍如といえるかも…。


明らかになるソルジャーに選ばれたジョミーの8年間に渡る苦悩。
初めて人類に対し、働きがけを行う決意をしたジョミー。
しかし、それはミュウ側に不利な方向に向いてしまう。


逃亡と戦闘。先が見えない安らぎ。
そんな時にこそ頼りにしたい若きリーダーは心を閉ざし、迷いと模索に押し潰されていく。
ソルジャーの気質が問われ、ジョミーが担ってしまった重荷がはっきりと実感される。


たとえ、悪い結果だったとしても、ジョミーなりの打開策を求めることは大切だった。
それがジョミーにとっての大事な進歩だ。




しかし、救いもある。
ジルベスタ−7と呼ばれる人類が入植を諦めた星。
新たに名づけられたナスカという大地。
不安と猜疑の狭間でミュウが揺れ動いたとしても、それまでになかった平穏なミュウの生活が、わずかだが体現される。


ミュウが出した答え。
それは自給自足による自分達の生活を築くこと。
食べ物だけに限らず、かつてはごく当たり前に人類が行動してきた「命」。
子孫を作り出すこと。


命を紡ぐ大切さが、ここから少しずつ語りだされていく。



が、平和の中で起きる亀裂は、とても深刻だ。
自分なら若いミュウ側についただろう。
なぜなら、「アルタミラの悲劇」をよく知らない。
というよりも、ストーリーでは、具体的に「アルタミラの悲劇」は描写されない。
だから、長老達が「アルタミラの悲劇」の重要性を訴えるが、いまいちその説得力は弱い。


経験したものでしかわからないその悲劇。
残念だが、長老達に感情移入ができない。
ブルーが望んだ星。テラに行くことが理想だとわかっていても…。


そのことが、ジョミーをさらに追い込んでいく。


子供達と戯れることを忘れない心優しいリーダー、ジョミー。
彼らの取り巻きの中で、カリナが望み生まれ出た新しい命。
その喜びを知り共有したミュウ達は、ここで生きることが悪いのか。
その問題の方がリアルに迫ってくる。
この時、私達もテラに行く目的を見失ってしまいそうになる。



だが、一方で、迫る危険を描き、ミュウの行く末に暗い影があることを、忘れずに描写する。


キースの動向。さらに、別次元で行動するようになったスウェナ。
徐々にナスカへ近づく人類側の行動がある意味不気味だ。




ここでまた疑問が生まれる。
マザーに洗脳されたサムの行動。
サムの記憶はジョミーをはっきりと記憶している。
さらに、マザーはミュウが隠れ住む場所をいつの間に把握していたのか…。



思うところはあるが、サムにとって、ジョミーは、検査後も消えなかった「強い記憶」だ。
その記憶をマザーに利用されたのか、マザーがわざと残したのか。
個々に想像が広がる。


サムの運命は最初から決定されていたので、このストーリーでも変えようがない。
ジョミーの傷がまた一つ増えてしまうことになっても…。



サムの事故に衝撃を受けたのは、ジョミーだけではない。
ポーカーフェイスを保ち任務の尋問の遂行するために、病院を訪れたキースも穏やかではない。
ステーション時代、キースが唯一友と認めた相手。それがサムである以上…。


マザーの申し子といわれ忠実に命令をこなすキース。
しかし、人間的な心も備わっていることが、その後のマツカとの出会いからも感じられる。


各話の脚本のばらつきのせいで、キースの言動は常に矛盾が生じる。
しかしながら、非情になれないキースは、それまで描かれてきたどのキースよりも心優しい。


それに輪をかけて、元上級生だったマードックが、キースに対し露骨な嫌がらせをしかける。
しかし、マードックの陰湿さが嫌いになれないのは、彼なりの主張があるからだ。
それが、キースファンには酷な展開であったとしても…。




その後、原作でも名場面としてあげられるキースとジョミーへの接触シーンへと続く。


原作と違い、ジョミーの傷つき方も柔らかな表現になる。
スタッフが思うジョミーの優しさがここでも感じられる。


対して、ジョミーの優しさに反するようにきつく描かれる幼少のトォニィ。
幼少ながら敵を鋭く察知する能力は、トォニィの能力の高さと怖さを充分に伝えてくれる。


ただし、トォニィはジョミーを父親として強く慕っている。
本当の父親ユーイは、すでにこの世にいない。


トォニィはそれを知っていて、ジョミーに深い絆を求める。
かつて少女だった母親カリナが、ジョミーにそうだったように。
トォニィにとっても、愛情を受け継いでもらう相手は、ジョミーだと潜在的に決定されている。


この絆がとても温かいストーリーをもたらす。
トォニィが嫌なやつにならないのは、ジョミーへの深い思いを同時に感じるからだ。




一方で、キースの存在に、心を揺さぶられるフィシス。
キースとフィシスの関係は、原作ファンならすでに承知の事実だ。
しかし、それを少しずつ明かしながら、どうアニメでは見せてくれるのか…。
この部分はとても興味がそそられる。




しかしながら、ジョミーはくじけない。
先のサムの傷もひきずることなく(その余裕もないが…)、次から次へと起きる問題にソルジャーらしく取り組んでいく。


この段階で、ブルーはまだ眠り続けたままだ。
ストーリーの展開がそうさせているわけだが、ジョミーに試練を与え、次のステップにあがる準備が整いつつある。


何しろ300年分の重荷をジョミーは背負わなくてはならない。
そのために、ジョミーは想像以上の苦悩を経験し、かつてブルーが備えていた同等の気質を持ち合わせなくてはならないのだ。




しかし、ついに、ジョミーだけでは手に負えなくなってくる。
ブルーの目覚めは必然として描かれる。
だが、ブルーの高度な感覚が覚醒を促す意味で、好きなシーンの一つである。



そして、事態は、次の段階で大きな悲劇へ繋がる。


フィシスの予言どおりの「不吉な風」。
だが、フィシスでも「不吉な風」の回避を占うことはできないようだ。
フィシスそのものが自身を占えない。


占い師は自身を占うことができないという。
フィシスも例外ではない。
そんな彼女は通常のミュウと一線を画す存在であることを、遠からず思うことができる。




ストーリーは荒削りながら、伏線となるポイントを抑えつつ、この後、前半の山場に突入していく…。